(2)需要志向価格決定法

2010-10-25

需要志向価格決定法とは、消費者を基準に価格を考える方法です。

この方法における価格の決め手は、消費者、ユーザー側からいくらで買ってもらえるかという買い手側、つまり顧客側の事情です。

具体的には、市場アンケート等でユーザーに買ってもらえる価格を調べて価格を設定します。例えば、知覚価値型価格設定法や需要差別価格設定法が、需要志向価格決定法に属します。

①知覚価値型価格設定法

知覚価値型価格設定法とは、消費者がその商品やサービスに知覚する価値(カスタマーバリュー)をベースにして、価格を設定する方法です。この方法では、知覚価値は、類似商品や代替商品の価格帯から推計したり、アンケートなどの市場調査によって、直接消費者が知覚する価値を測定します。そして、その価値をベースにして、価格を決めるのです。実際には、事前のリサーチなどにより「売れる価格帯」を調査し、その価格帯の中で、価格を決めることも多いようです。

(売れる価格帯:PSM)

売れる価格帯とは、どのようなゾーンで、それはどのようにして調べるのでしょうか。

売れる価格帯の上限は、「その製品はあまりにも高いので品質は良いと思われるが買う価値がないと感じる価格」であり、下限は「その製品はあまりにも安いので品質に不安を抱き買う価値がないと感じる価格」となります。この2つの価格を消費者に対するアンケート結果などを基に推定するのです。このような調査をPSM(Price Sensitivity Measurement)調査といいます。

価格は安いほど良いと思われがちですが、実際には、安過ぎると品質に疑問をもち、売れない商材があるのです。これはとても大切なポイントです。

なぜなら、価格には、品質に関するシグナル効果(情報発信効果)があるからです。このため、価格をあまり低く設定してしまうと、品質に対する信頼感を失い、かえって売れ行きが悪くなることがあるのです。

(ファンクショナルベネフィット、エモーショナルベネフィット)

消費者が知覚する価値とは、消費者が知覚するベネフィット(便益)ということができます。

このベネフィットには大きく、ファンクショナルベネフィット(機能的便益)とエモーショナルベネフィット(感情的便益)の2つに分かれます。

機能的ベネフィットは、「早い、安い、旨い」など即物的なものです。例えば、パソコンではCPUの処理速度やハードディスクの容量などが機能的ベネフィットとなり、自動車では、排気量や乗車定員、全長などが該当します。いわゆる「スペック(スペシフィケーションの略で、「仕様」を意味する)」に近いものと考えてよいでしょう。一方、感情的ベネフィットとは、「楽しい、格好いい」など心理的なものです。パソコンや自動車では、デザインやイメージなどが感情的ベネフィットに当たります。

男性が女性向け商品を開発する際に気を付けなくてはならないのは、機能的ベネフィットに目を奪われがちになるということです。実際には、女性は感情的ベネフィットを重視することが多いものです。

例えば、化粧品の場合、販売価格に占める成分のコストは、非常に低いといわれています。10%未満の化粧品がほとんどです。では、化粧品メーカーは、成分以外には、どのようなところにお金をかけているかというと、パッケージ(容器・外箱など)や広告・宣伝費なのです。

衣服も同様に、感情的ベネフィットが重要視される傾向があります。

そういえば、昔、高倉健がレナウンの「シンプルライフ」というブランドの洋服のイメージキャラクターを務めていました。私などは、「シンプルライフ」を着ただけで高倉健に近づいたような気がして嬉しかったものです。今考えれば、これも、感情的ベネフィットだったわけですね。

プールについて考えてみると、機能的便益とは、プールの種類・広さなどが上げられるでしょう。一方、感情的便益としては雰囲気などが上げられるでしょう。

機能的便益で考えれば公営プールで十分です。例えば、私が住んでいる東京都板橋区の室内プールなら大人470円で2時間利用できます。埼玉県の川越水上公園のプールなら、多目的プール、波のプール、流水プール、飛び込みプールなど色々なプールがあります。しかも、レストランや売店も完備されています。この便益で大人一日700円です。民間施設となれば、例えば、東京都練馬区のとしまえんのプールも多種多様なプールに豊富な飲食施設も備わって大人一日3,800円です。

これに対して、高級シティホテルのプールはどうでしょう。それほど大きくないプールが一つだけというホテルが多いと思います。機能的便益で考えれば、川越水上公園プールやとしまえんプールより劣るでしょう。東京都板橋区の室内プール並みといってよいのではないでしょうか。しかし、価格はより高く設定しています。例えば、ホテルオークラ東京のプール「グリーンオアシス」の場合、6,300円(平日)又は10,500円(土曜・日曜・祝日)です。この差を説明する大きな要因が感情的便益です。私も利用したことがありますが、確かに雰囲気が抜群です。とても優雅な気持ちで時間を過ごすことができました。感情的便益が素晴らしいのです。だからこそ、公共プールの20倍以上の価格でも利用されるのです。

(攻めの知覚価値型価格設定法)

この知覚価値型価格設定法は、既に消費者が知覚している価値に基づいて価格設定を行う場合と、消費者に対してマーケティング手法を駆使して消費者の心理の中に知覚を植えつけることを前提にして価格設定を行う場合があります。後者はより積極的な「攻め」の価格設定法です。

ここで注意が必要なのは、商品の客観的な価値が消費者の知覚する価値と同じとは限らないということです。

往々にしてあるのが、商品の客観的な価値が消費者に上手く伝わっていないため、知覚価値が低いケースです。この場合は、広告・宣伝を行って、消費者の知覚価値を上げることが大変有効です。これなどは、価格戦略と販売促進戦略を一緒に考えるマーケティングミックスの好例といえましょう。

(ターゲットコスティング)

知覚価値型価格設定法に関連した手法に「ターゲットコスティング」というものがあります。これは、知覚価値型価格設定法などにより、先ず販売価格を決めて、それから逆算して原価(コスト)を決めるという手法です。いわば、「入るを量りて出ずるを制す」という考え方です。例えば、100円でしか消費者に受け入れられないと分かった場合、粗利益を20%確保したいのであれば、原価は80円に抑えるといった方法です。ターゲットコスティングという名前は外国製ですが、実は、この手法が得意なのは、日本企業だといわれています。

(重要なのがカテゴライゼーション)

知覚価値型価格設定法で大切なのは、その商品が何に分類されているかとういうことです。いわゆるカテゴライゼーションが重要なのです。

私の実家は、愛媛県松山市からフェリーで小1時間のところにある中島という島です。私の従兄弟がこの島で、有限会社フレッシュファクトリートミナガという会社を興して、柑橘類の生果やジュースの販売をしています。現在、16種類の柑橘類の果汁を製造・販売しています。柑橘類だけでこれだけの品揃えをしている会社は他にないと思います。その果汁の中に「だいだい」という柑橘があります。正月の鏡餅に飾る、あのだいだいです。関西では鍋物のポン酢として利用します。また、焼酎の割り材としても逸品です。この「だいだい」果汁、温州みかんのジュースやイヨカンのジュースと同じ製造工程ですから、コストは同じです。そこで当初、内容量360mlの「だいだい」果汁を260円ほどで売っていました。温州みかんジュースなら360mlで260円は、チョット高い価格設定です。ところが、「だいだい」果汁は、「安い」「安い」と飛ぶように売れたのです。自然食品のスーパーからも大量に仕入れたいという申し出がありました。この時、「カテゴリーを間違った」ことに気付いたのです。実は、この「だいだい」果汁は清涼飲料水のカテゴリーではなく、調味料やドレッシングなどのカテゴリーだったのです。清涼飲料水なら360mlで260円は高めの価格設定となりますが、調味料やドレッシングとしてなら、非常に低めの価格設定なのです。例えば、POKKAのポッカレモン100は、150mlで270円(税別)もします。そこで、フレッシュファクトリートミナガでは、容量も200mlに価格も400円(税別)に変更しました。実質2.7倍強の値上げです。しかし、これだけ値上げしても、調味料やドレッシングとしては高くないので、売れ行きはそれほど落ちませんでした。その結果、売り上げと利益は大幅に増加しました。

②バリュー価格設定法

消費者の知覚価値より低めに価格を設定する方法です。知覚価値をベースにしているので、知覚価値型価格設定法の一種とつかまえることもできます。

品質と価格との関係で整理すると割安価格戦略ということができます。割安価格戦略については、後で詳述します。

この価格設定法ですが、使い方を間違えると、大変なことになります。かつて、ある化粧品会社が派手な広告をしている高価格化粧品とほぼ同じ内容の化粧品を、宣伝を全くしないことによりコストを抑えて100円で販売したことがあったそうです。結果は、散々だったそうです。これなども、エモーショナルベネフィットを軽視した結果といえるでしょう。

③需要差別型価格設定法

需要差別型価格設定法とは、消費者のセグメント(何らかの基準で分けられた同質な集団)などにより需要度が異なる場合に、原価がほとんど変わらないほぼ同一の商品に対して、異なった価格を設定する方法です。子供料金と大人料金、劇場の座席、格安航空券など色々なケースで利用されています。

この価格設定方法は、同一または同様の商品・サービスを異なる価格で販売するため、不公平感が生じる場合がありますので、導入に当たっては注意が必要です。

この価格設定方法は、非常に重要でかつ複雑なので、後ほど「差別価格」のところで、詳しく説明します。