(1)原価志向価格決定法

2010-10-25

原価志向価格決定法とは、原価を基準に価格を考える方法です。

価格の大きな決め手は、原価、つまり、コストがいくらかかるのかという売り手側、つまり自社の事情です。

この方法では、要した費用に一定の利益を上乗せして価格を決定します。原価志向価格決定法にも色々なものがありますが、原価加算法(コスト・プラス法)やマークアップ法、目標利益法などが有名です。

①原価加算法

原価加算法とは、原価に一定額の利益額(マージン)を加えて、価格を設定する方法です。コスト・プラス法とも呼ばれます。

コスト・プラス法は、非常に簡単に価格を決定できる方法であることから、製造業などで幅広く利用されています。

価格=原価+利益額

この価格設定法では、小規模の注文でも一定の利幅が確保できることから、小ロットの受注生産品の見積りなどでよく利用されます。

理論的には、シンプルな価格決定法なのですが、実際には、原価の計算の仕方により様々なバリエーションが考えられます。

例えば、原価には、直接原価・変動費だけを入れて、マージンを多め(厚め)に設定する方法もあり、また、原価に間接原価・固定費まで入れて、マージンは純粋な利益に限定する方法もあります。

原価の捉え方は、業種によっても異なります。例えば、小売りなどの流通業の場合、仕入れ費用のみを原価とみなすこともでき、比較的シンプルです。一方、メーカーの場合は、材料費だけでなく、労務費、設備費用(減価償却費)、開発費など様々な原価が考えられ、原価の設定が非常に複雑です。

例えば、メーカーの場合、コストを「製造コスト(原材料費、設備費、光熱費、輸送費、人件費など)」と「マーケティングコスト(広告宣伝費、販売関係人件費、販売促進費、営業拠点の維持費など)」に分けることもできます。この場合も、製造コストだけを原価に入れるかマーケティングコストまで原価に入れるかでマージンの設定の仕方が異なってきます。

《原価とマージンの色々なパターン》

  原価 マージン
全産業 変動費 固定費+マージン
直接費用 間接費用+マージン
流通業 仕入れ原価 販売・管理費+純利益 ※この場合のマージンは、いわゆる「粗利益」
仕入れ原価+販売・管理費 純利益
製造業 製造コスト マーケティングコスト+純利益
製造コスト+マーケティングコスト 純利益

 

②マークアップ法

マークアップ法とは、原価に一定率の利益を上乗せして、価格を設定する方法です。主にスーパーなどの小売業者や卸売業者など流通業で利用されている売価決定法です。例えば、80円で仕入れたタマゴを25%の利益を乗せて100円と値付けする方法です。

この利益(マークアップ)率は、我が国の流通業界では、「値入率」といわれているものです。

価格=原価+原価×利益(マークアップ)率=原価×(1+利益率)

○内掛け方式と外掛け方式

「販売価格=仕入原価×(1+値入率)」と計算する場合、この値入率は、特に「原価値入率」と呼ばれます。原価値入率は、逆算すると、「原価値入率=(値入額/仕入原価)」とも表現できます。例えば、80円で仕入れた商品を100円で販売する場合、原価値入額は20円となり、原価値入率は、20円/80円=0.25(25%)となります。この方法は、別名、内掛け方式と呼ばれます。この方式は、大変わかり易い方法なので、今でも八百屋さんや果物屋さんではよく使われている方法です。

しかし、我が国では、次に紹介する外掛け方式が主流になっています。

外掛け方式では、販売価格は、仕入原価を原価率で割って求めます。例えば、販売価格に対して20%の利幅を確保したいと考えているとします。この20%は、売価値入率=(値入額/販売価格)と呼ばれます。会計上の売上総利益率や粗利益率と同じものです。この場合、100%から売価値入率を引いた値(80%)が原価率となります。外掛け方式では、仕入原価を原価率で割ると販売価格が算出されますから、販売価格は、80円を0.8で割って100円と計算されるのです。

内掛け方式:販売価格=仕入原価×(1+原価値入率)
                                                                   原価値入率=(値入額/仕入原価)外掛け方式:販売価格=仕入原価/(原価率)
                                      =仕入原価/(1-売価値入率)
                                                                     売価値入率=(値入額/販売価格)

 

(値入率と利掛率)

売価値入率とは、分母が売価で、売価に対する値入(利幅)の比率を示します。単に値入率といった場合、通常、売価値入率を指しますのでご注意下さい。80円で仕入れた商品を100円で販売する場合、値入額は20円となり、値入率は、20円/100円=20%と計算されます。

一方、分母が原価で、原価(仕入れコスト)に対する値入(利幅)の比率が、原価値入率です。原価値入率は、別名「利掛率」といわれます。先程の例では、利掛率は、20円/80円=25%と計算されます。

値入率 売価値入率(値入率) 値入/売価 外掛け方式
原価値入率(利掛率) 値入/原価 内掛け方式

 

(広義のマークアップ法)マークアップ法の一種として、「売価=仕入原価+値入額(マークアップ)」という計算方法が紹介されている場合がありますが、これは①で紹介した原価加算法とほぼ同じものとなります。我が国では、原価加算法とマークアップ法を別のものと紹介することが多いので、この記事でも、分けて説明しましたが、米国などでは特に区別しないで原価加算法も含めてマークアップ法を説明することが多いようです。つまり、広義のマークアップ法には、原価加算法が含まれるのです。

    マージン 業種
マークアップ法(広義) 原価加算法 (利益)額 製造業
マークアップ法(狭義) (利益)率 流通業

 

(適正利潤とコスト意識)

この広義のマークアップ法は、電力会社など公共的なサービスの料金設定で利用されます。

なぜなら、この方式であれば、会社が暴利を貪るという弊害を除去できるからです。電力などのライフラインに関するサービスは、値段が高いからといって、利用しないわけにはいきません。もし、価格を自由に決めさせれば、とても高い値段となる恐れもあります。そこで、電気料金には許認可制がとられているのですが、その料金の算定根拠として、マークアップ法が採用されているといわれています。この方式であれば、電力会社は存続に必要な利益を確保できますし、消費者も法外な料金を課されることもありません。こう考えると理論的に理想的な方式といえるかもしれません。

電気料金のような公共料金の決め方には、2つの方式があります。積み上げ方式と統括原価方式(レートベース方式)です。

積み上げ方式は、かかる費用を積み上げて料金に反映させる方式です。この方式では、人件費の削減などでコスト削減に努めたところで、その分、料金が下がれば利益につながるわけではありません。したがって、コスト削減に努めるインセンティブに欠ける方式だという批判があり、放漫経営を招きやすいため、日本では電力料金はレートベース方式が採用されています。

統括原価方式とは、適正原価に適正事業報酬を加えた統括原価を販売予定電力量で割って電力単価を求めるという方式です。

適正事業報酬は、

電力単価=総括原価÷販売予定電力量
                 総括原価=適正事業報酬+適正原価
                 適正事業報酬=レートベース資産×5.25%
※適正原価:人件費、燃料費、修繕費、減価償却費等
※レートベース資産:発電、送電、変電、配電および営業用の施設、運転資本等

レートベース資産(発電、送電、変電、配電および営業用の施設、運転資本などの合計額)の帳簿価格の一定割合(現在5.25%)と決められています。

この方式には、資産を保有すれば保有するだけ利益を上げられる仕組みになっています。普通の会社では、設備投資をすると資金繰りが悪化するなどのリスクがあるため、過大な設備投資には慎重になります。しかし、電力会社の場合は、設備投資をすれば、その分、利益が増えるので、大きな設備投資を必要とする原子力発電所の建設に必要以上に積極的だと指摘されています。

③目標利益率法

目標利益率法又は目標利益法は、目標とする利益率を達成するように価格を設定する方法です。マーケットリターン法とも呼ばれます。投資収益率(ROI)を重視する米国で主に活用されている価格設定方法です。

例えば、1,000万円の設備投資を行えば、1本当たり80円のコスト(変動費)でジュースを製造できるとします。また、この設備では10万本の製造が可能で、販売見込みも10万本あるとします。さて、この設備投資に対して20%の投資収益率(ROI)が求められているとする(期待収益率=20%)と、このジュースの価格(卸売価格)は幾らと設定すれば良いでしょうか。

1,000万円に対して20%の収益ですから、200万円の利益が必要となります。1本当たりでは、20円です。したがって、価格は100円=80円+20円となります。

目標利益率価格=単位当たりコスト+(期待収益率×投下資本)/販売数量

(価格設定には売上げ見通しが大切)

原価志向価格決定法の場合、どのくらいマージンを上乗せするかが、大切になります。

なるべく多くのマージンを上乗せしたいのはやまやまでしょうが、マージンを厚くすればするほど、価格は高くなってしまいます。価格を高くすれば、通常、売れ行きは鈍ります。つまり、マージンの厚さと販売数量との間には、一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという二律背反の関係、いわゆるトレード・オフの関係にあります。1個当たりのマージンが多くても、あまり売れ行きが悪いと、全体では赤字になってしまいます。

(損益分岐点分析)

では、ある価格に設定をした場合、どれくらいの売上げがあれば、赤字を回避できるのでしょうか。

黒字を確保できるぎりぎりの売り上げのことを、損益分岐点と言います。(損益分岐点には、黒字を確保できるぎりぎり売上数量である損益分岐点数量と、黒字を確保できるぎりぎり売上金額である損益分岐点売上金額があります。)

損益分岐点を見つけるには、まず、費用を固定費と変動費に分けます。人件費や家賃など、売上高の多寡に関係なく、一定額を定期的に支払わねばならない費用が固定費です。極端にいえば売り上げがなくてもかかるものが固定費です。また、減価償却費も売上高の多寡に関係なく、一定額を定期的に支払わねばならない費用なので固定費です。(研究開発費については、売上高の何%を研究開発費に充てるというような考え方も一部にはありますが、固定費として扱った方が無難です。)固定費に対して、仕入高や外注費など売上高の増加に応じて増えていく費用が変動費です。

売上高から変動費を引いたものを限界利益といいます。限界利益が固定費を上回る点(売上数量・売上高)が損益分岐点となります。

売上高 変動費
限界利益 固定費
利益

 

(損益分岐点分析の例)

例えば、蜜柑(みかん)ジュースのクチコミ販売をするとします。前提条件として、社員は社長一人で生活費として最低20万円は必要だとします。つまり、これが固定費です。蜜柑ジュースは親戚から1本100円で仕入れることができるとします。低農薬の蜜柑(みかん)で作ったこだわりジュースということで、1本200円で販売するとします。

さて、赤字を出さないためには、一か月当たり何本のジュースを販売しなくてはならないでしょうか。

1本販売すると、収入(売上高)200円で、販売に伴って増える支出(変動費)が100円なので、100円だけ現金が増えます(限界利益)。

1月当たり販売量に関係ない支出(固定費)が200,000円あるので、1本販売しただけでは、トータルでは199,900円の赤字です。2本販売すると、200円だけ赤字が減って、トータルの赤字は199,800円の赤字となります。その後も、1本売れる度に、100円だけ赤字が減っていきます。トータルの赤字がゼロになるには、何本のジュースを販売しなくてはならないでしょうか。答えは、200,000円を100円で割った2,000本です。損益分岐点での売上金額は、損益分岐点(数量)2,000本に1本当たりの価格(単価)200円を掛けた400,000円となります。

このように、損益分岐点(数量)は、固定費を1個当たり限界利益で割って求めることができます。

2,000本売れるまでは、売り上げ200円の半分100円が固定費の穴埋めに使われ、2,000本売れて固定費の穴埋めが完了した後は、売り上げ200円の半分100円が利益として残っていくわけです。

損益分岐点分析の計算式:

損益分岐点(数量)=固定費÷1個当たり限界利益

(この蜜柑ジュースの場合)2,000本=200,000円÷100円

損益分岐点(売上金額)=(固定費÷1個当たり限界利益)×単価

(この蜜柑ジュースの場合)400,000円=(200,000円÷100円)×200円

(ポケットプライス)

価格を決める際に考慮しなくてはならないのは、「ポケットプライス」という概念です。ポケットプライスとは、実際にポケット(「懐」)に出入りする金額(真実の取引価格)のことで、ポケットプライスには、企業(メーカー)にとってのポケットプライスと消費者にとってのポケットプライスの2つがあります。

メーカーにとってのポケットプライスとは、最終的にその企業のポケット(口座)に入った収入のこと、いわゆる「手取り」を指します。メーカーの場合、通常、定価(基準価格)より安い伝票価格で取引がされます。しかし、それ以外にも、様々な値引きや奨励金、協賛金などが支払われるため、実際に入ってくる金額は、伝票価格より一層安いものになります。更に、販促コストや運送費などのコストをそこから差し引くと、「手取り」はもっと少なくなります。このポケットプライスと伝票価格との差額は、業界・業種によって異なりますが、概ね20%もあるとのことです。したがって、このポケットプライスと伝票価格との差額を如何に小さくするかが、実は非常に重要なのです。

しかも、このポケットプライスは、取引先による散らばりが大きいのです。つまり、ポケットプライスでみると非常に安く販売している取引先もあれば、そうでもない取引先もあるのです。更にやっかいなのは、社長など経営幹部が取引先ごとのポケットプライスを知らないだけでなく、営業担当者もポケットプライスを把握していないことが多いのです。なぜなら、販促コストや運送費などは担当部署が異なったりするため、営業担当者レベルでは把握が困難なことが多いのです。言わば、ポケットプライスは闇の中にあるのです。だからこそ、今まで全くこのような意識を持ってなかった企業が、取引先ごとのポケットプライスを明確にして、無駄な支出はないかを検証すれば、通常、驚くほど利益を上げることにまります。

一方、消費者にとってのポケットプライスとは、消費税などを含めた実際に支払う金額のことです。

例えば、最近、原油高に伴う原材料や包装資材の値上がりなどを理由に値上げを試みるメーカーが増えています。一方、流通業界では、値上げは大反対です。これは、2004年(平成16年)の消費税総額表示の際に、見かけ上の値ごろ感が薄れて売り上げを大幅に落としたというトラウマともいうべき痛い経験が背景にあるからです。そこで最近とられている手法が、表示価格を変えずに内容量を削減するというやりかたです。これなら、「ポケットプライス」は維持しつつも、実質的には値上げが可能です。例えば、2006年に、日本ハムは「シャウエッセン」を価格はそのままで、7本入りから6本入りに変更しました。伊藤ハムでは「バイエルン」を一袋145グラム入りから135グラム入りに変更しました。

なお、ポケットプライスとは、端数価格、つまり、2,000円に対して1,980円、200円に対して198円のように、値段の末尾に「9」や「8」などを付けて、キリのいい価格に比べてお得感を演出する値付けを意味することもあります。