(4)心理的価格決定法

2010-10-25

心理的価格決定法とはイメージから価格を考える方法です。これは、需要志向と競争志向の両面から価格を決定する方法でもあります。端数価格設定法や威光価格設定法、慣習価格設定法などが代表的なものです。

①端数価格設定法

端数価格設定方式は、500円や1,000円といった切りの良い数字ではなく、498円、980円など端数の付いた価格に設定する方法です。端数にすることで、割安感を演出する手法です。例えば、1,000円と980円を比べると、20円安いだけですが、「大台割れ」で一桁小さい980円はかなり安い感じを受けます。990円でも良さそうなものですが、990円では1,000円に近すぎて余り効果がないと日本では言われています。また、9が「苦」につながり、8は末広がりで縁起が良いことから、「苦」が重なる990円より、980円という価格設定が好まれるようです。

年賀状を作成する頃になると思い出すのが、理想科学工業のプリントゴッコ。この商品の価格設定会議は大変だったそうです。「15,000円にしないと採算があわない」という意見が社員から出されたのですが、「1万円以下にしないと家庭に普及しない」と社長が主張したのです。結局、社長の考えに沿って9,800円で売り出されたところ、大当たりしたのです。

(8にはこだわらない米国の端数価格)

日本では、990円より980円が人気がありますが、欧米では8にはこだわりません。例えば、アップル社のオンライン・ミュージック・ストア<iTUNE>では、ダウンロード価格が1曲当たり99セント、アルバム単位であれば、9.99ドルに価格設定されています。

 

②威光価格設定法

威光価格設定法は、消費者の知覚する同じカテゴリーの商品・サービスの価格より高めに価格を設定する方法のことです。「名声価格設定法」と呼ばれることもあります。これは、「価格が高いものは、品質も良いはずである」「価格が高いものを持っていること自体でステータス(高い社会的地位や身分)になる満足感を味わえる」といった心理的効果をねらって価格を設定するのです。

購入頻度が少なく、品質や効果など製品価値の判断が難しい商品、例えば、貴金属製品や高級ブランドのバッグ・衣服などでよく利用されます。通常、商品の価格が高くなるほど、その商品の需要量は減りますが、逆に「価格が高いから買う」といったケースがあることも事実です。

既に説明しましたように、価格には、シグナル効果(情報発信効果)があるとされており、価格が高く設定することで消費者に高品質、高級感などの価値を伝えることができるわけです。反対に価格を低く設定してしまうと、品質に対する信頼感を失い、かえって売れ行きが悪くなることがあるのです。

③慣習価格設定法

慣習価格設定法とは、同じカテゴリーの商品・サービスの価格として定着している価格(慣習価格)と同じ価格に設定する方法です。例えば、自動販売機の缶入り清涼飲料水は、現在、メーカー・種類に関わらずほとんどの商品が120円に設定されています。一方、500mlのペットボトルの清涼飲料水は150円です。

慣習価格設定法では、500mlのペットボトルの清涼飲料水の新商品の価格を120円前後に設定することになります。

花王のヘルシア緑茶の場合、200円以上で売られていますので、慣習価格設定法ではなく、威光価格設定法ということになります。

慣習価格が定着している商品では、その価格より少しでも高い価格を設定すると極端に売上が落ちることが少なくありません。したがって、慣習価格より高い価格を設定する場合には、消費者にその違いを十分に認識していただくことが大切です。

ヘルシア緑茶の場合、特定保健用食品(トクホ)という点を強調することで、通常のお茶との差別化を図りました。

(競争志向価格決定法の例)

全日本空輸と日本航空は、昨年4月に燃料高を理由に運賃を引き上げたばかりですが、2008年1月から東京-大阪間(羽田―伊丹線)の運賃を引き下げました。何故なら、運賃を引き上げた結果、旅客が新幹線に流れたからです。新運賃の1万4,000円は、新幹線の東京―新大阪間の通常運賃である1万4,050円を下回ります。

全日本空輸のライバルというと、まず日本航空が思いつきますが、東京-大阪間の場合、JR(新幹線)も有力なライバルなのです。したがって、このライバルの価格を意識せざるを得ないのです。

原価志向価格決定法であれば、値上げとなりますが、競争志向価格決定法では値下げとなってしまうのです。

(3つの価格決定方法の上下関係)

既に説明したように、どれか1つで価格を決められるというものではありません。価格設定をする前に、①製品・商品・サービスの提供に“いくらかかるか(コスト)”を計算した場合の価格、②市場の状況から判断して、“いくらで売れる”を計算した場合の価格、③ライバル企業の製品・商品およびサービスと比較して品質と価格のバランスで競争力を維持できる価格、の3つの価格を推定しておくことが望ましいといえましょう。

例えば、原価志向価格決定法の一種であるマークアップ法で110円という価格が算出されたとします。もし、需要志向価格決定法で220円、競争志向価格決定法で180円と算出された場合、価格は110円ではなく、180円と設定した方が良いでしょう。このように、商品の価格は、複数の観点から検討することが重要なのです。

また、商品自体の見直しをしない限り、価格の設定が不可能な場合もあります。例えば、ライバル企業と同じ値段では原価割れとなる場合です。

ここで、3つの価格決定方法の上下関係について整理しておきましょう。

○独占的商材の場合

独占的商材の場合は、競争志向価格決定法による価格は、考慮する必要はないので、重要なのは、需要志向価格決定法による価格(以下「需要価格」といいます)と原価志向価格決定法の価格(以下「原価価格」といいます)との関係になります。

需要価格>原価価格 となっていれば、問題ありません。需要価格と原価価格の間で価格を決めればよいのです。言うまでもありませんが、需要価格に近づけるほど価格は高く設定することになりますので、販売数量は減少します。一方、原価価格に近づけるほど価格は低く設定することになりますので、販売数量は増加します。その価格帯の中で最も利益が上がる価格を選択すればよいのです。

問題は、需要価格<原価価格 となっている場合です。この場合は、原価価格に価格を設定すれば、販売できる見込みが(ほとんど)なくなります。一方、需要価格に価格を設定すれば、売れば売るほど赤字になりかねません。

このような場合には、商品の見直しが必要となります。見直しの方向としては、原価を下げることはできないか、需要価格を上げることはできないか、の2つです。もちろん、両方を平行してやることもよくあります。

商品が完成してからでは、見直すことが不可能な場合も出てきます。だからこそ、早めに価格について検討することが大切なのです。

○競争のある商材の場合

競争のある商材の場合は、競争志向価格決定法による価格(以下「競争価格」といいます)も考慮しなくてはなりません。

需要価格>競争価格>原価価格 となっている場合、需要価格と原価価格の間にある競争価格の近辺で価格を決めることになるでしょう。ライバルの商材より自信があるので高めに価格を設定することもあれば、あえて安めに設定して一気にシェアを奪うことも考えられます。会社の戦略次第です。

需要価格<原価価格 となっている場合は、独占的商材の場合と同様、商品の見直しが必要となります。

仮に、需要価格>原価価格 であっても、原価価格>競争価格 の場合は、やはり商品の見直しが必要となる場合があります。実は、原価価格>競争価格 となる場合、深刻な問題をはらんでいるおそれがあるので注意が必要です。つまり、設備的な問題や人材的な問題で、業界内で既に競争力を失っている可能性が高いからです。この場合は、早めの撤退を決意しなくてはならないこともあります。こう考えても、価格の決定というのは、非常に重要な課題ですね。