(3)競争志向価格決定法
競争志向価格決定法とは、同業他社の動向から価格を考える方法です。この方法での価格の決め手は、ライバルとの競争力です。
具体的には、ライバル企業に競争力の点で優位性を確保するために、品質と価格のバランスによる差別化を図って設定する価格決定方法です。例えば、実勢価格や入札価格による価格設定は競争志向価格決定法に属します。
①実勢価格設定法
実際に競合他社の商品が販売されている価格(実勢価格)に合わせて価格を設定する方法です。後ほど説明する「慣習価格設定法」とほぼ同じ方法です。現行レート価格設定法と呼ばれることもあります。本来は、競合他社の価格に合わせる設定方法を指しますが、競合他社の価格を基準にして、それより少し高く設定する場合や少し低く設定する場合も、広い意味で実勢価格設定法に含めることもあります。低く設定する場合は、後述する「公開競争価格設定法」と同じ方法となります。
実勢価格設定法の例としては、ガソリンスタンドがあります。ガソリンスタンドの場合、近郊のガソリンスタンドとほぼ同じ値段で売られています。ガソリンはどこでも同じだろうから1円でも安い方がよいと思う消費者がほとんどなので、近郊のガソリンスタンドとかけ離れて高い価格はなかなか設定できないのです。
理髪店の価格も少し前まではほとんどの店が実勢価格でした。組合で決まった価格をそのまま守っていたようです。
不動産屋の手数料も実勢価格が主流です。不動産売買の手数料は、「物件価格の3%+6万円」と決まっていると思われている方も多いようです、実はこれは上限手数料なのです。つまり、「物件価格の3%+6万円」以上払う必要はないですが、値引きしてもらって全然構わないのです。
②入札価格法
入札により価格が決定される方法です。いわゆるオークション方式の一つです。特定の買い手が複数の売り手の中から契約相手を選択する場合に多く用いられる方法です。通常、買い手は、入札で最も低い価格を提示した売り手から購入します。
反対に、特定の売り手が複数の買い手の中から契約相手を選択する場合もあります。この場合は、最高の価格を提示した買い手に販売することになります。この場合は、価格を提示するのは、買い手となり、これまで説明した価格設定とは異なります。
(価格は売り手が設定できるとは限らない)
これまでは、価格を売り手が設定するという前提で説明してきましたが、実際には売り手が価格を設定できないケースも少なくありません。
③公開競争価格設定法
競争企業の価格を基準にして、それよりも低い価格を設定する方法です。ライバルより安い価格を設定することで市場シェアの拡大を図ろうとするものです。
(コモディティ価格は市場が決める)
ありふれた商品や他と差別化できていない商品のことをコモディティといいます。例えば、塩、砂糖、ティシュペーパー、ビニール傘、金、多くの農産物などがその例です。
これらの商品では、競争志向価格決定法が特に重要となります。というのは、自分がいくら高い価格で売りたくても、ものが同じであれば、価格が低い他社の商品にお客を奪われてしまうからです。反対に値段を安くすれば、それだけ確実に売上数量を伸ばすことができるでしょう。
こうした商品の場合、価格は、商品全体の需要と供給でほぼ価格が決まってしまいます。個々の売り手ができることには限界があるのです。つまり、価格は市場で決まるのです。
果物のみかんもそうです。例えば、昨シーズンのように収穫量が少なければ、需要が供給を上回るので、例え味は少々悪くても価格は上がってしまいます。反対に、味は少々良くても豊作では価格は下がってしまいます。この結果、豊作貧乏となるのです。
もちろん、実際には、同じみかんといっても産地などによって、価格は多少異なります。例えば、愛媛の「日の丸みかん」は、5kgが5,000円(送料込み)で売られています。同じ愛媛みかんでも銘柄に拘れなければ、スーパーで1,000円も出せば売っています。送料を除いても3倍ほどの価格差があります。それは、他の愛媛みかんと差別化ができているからです。つまり、「日の丸みかん」は、コモディティからの脱出に成功したのです。「日の丸みかん」の場合、味だけでなく、パッケージにもこだわっています。これが、「日の丸みかん」のパッケージです。千両箱をイメージした黒塗りの箱はおよそミカン箱とは思えません。これなども、価格戦略と包装戦略がコラボレーション(協力・連携・共同作業)したマーケティングミックスの好例といえましょう。
コモディティは市場で値段が決まってしまいます。それ以上に高い価格を設定するには、差別化を図り、脱コモディティ化が必要なのです。
脱コモディティ化に成功した事例としては、他に「関サバ」・「関アジ」があります。関サバ、関アジは潮流が早く、えさの豊富な豊後水道で一本釣りされたマアジ、マサバのことです。サバやアジも普通は、市場でだいたいの値段が決まってしまいます。しかし、今や魚のブランド品として名声が確立した「関サバ」・「関アジ」は、市場で決まった価格より遥かに高い価格で取引されています。例えば、近鉄百貨店のインターネットショップでは、「関サバ姿造り」(旬の関サバを1尾丸ごと使用し、職人の技で仕上げた姿造り)がなんと8,400円で販売されていました。